日本版GPS衛星と銘打たれた「みちびき」の4号機の打ち上げが成功したというニュースが流れています。
「みちびき」で何が変わるのか、どうやったら利用できるのか。ここで「みちびき」について勉強しておきましょう。
GPS衛星の補完
現在スマホやカーナビなどで利用されるGPS衛星は、アメリカ空軍が運用しているもので、上空にある複数の衛星からの信号を受信することで現在位置を知ることができます。
このアメリカが運用するGPSでは全地球を対象として30機以上の衛星でカバーしていますが、ある地点で安定して位置情報を得るには8機以上の衛星が(その地点から)見える必要があるとされます。
しかし全地球を対象として配置されている現状では、どの地点でもだいたい6機程度しか見ることができないため、安定した位置情報を得るには不足する場合があります。またこれ以上の衛星を配備することも維持管理にかかる莫大なコストの関係から難しいとされています。
これを補完する日本独自の衛星を打ち上げることで、GPS衛星6機+3機の常時8機体制を整備することで、日本全体で安定した高精度な測位が可能とするのが「みちびき」ということになります。
これまでに打ち上げられた3機と合わせて、今回成功の4機目によりようやく第一段階目の4機体制が整うことになるということです。
今後さらに衛星を追加することで2023年度には7機体制を実現し、この「みちびき」だけで安定した測位情報を得ることも可能になることが予定されています。
どうやったら利用できるのか?
「みちびき」の提供するサービスには複数の種類がありますが、それを利用するためには専用の対応機器が必要となります。
この対応機器は下記のページで公開されています。
みちびき対応製品リスト|利用者向け情報|みちびき(準天頂衛星システム:QZSS)公式サイト – 内閣府
http://qzss.go.jp/usage/products/list.html
メーカー | 製品名 | 対応信号 | |
---|---|---|---|
スマートフォン | |||
アップル | iPhone 7 / 7 Plus / Apple Watch Series 2 ※日本販売製品のみQZSS対応 | L1C/A | |
ASUS | ZenFone 2 ZE551ML / ZenFone Zoom ZX551ML | ||
コヴィア | CP-F03a 【FLEAZ】 Que / F5(CP-F50aK) / F4s(CP-F40s) / F4s PLUS / F4 | ||
サムスン電子 | 【Galaxy S8】 Galaxy S8 SC-02J(NTTドコモ向け) / Galaxy S8 SCV36(au向け) 【Galaxy S8+】 Galaxy S8+ SC-03J(NTTドコモ向け) / Galaxy S8+ SCV35(au向け) | ||
シャープ | 【AQUOS R】 AQUOS R SH-03J(NTTドコモ向け) / AQUOS R(ソフトバンク向け) / AQUOS R SHV39(au向け) | ||
ポラロイド | Polaroid pigu |
例を挙げると、スマートフォンではiPhone7/7Plus、Apple WatchのApple製品を始めとして、ASUSのZenFone 2 ZE551ML 、サムスン電子のGalaxy S8/S8+などが対応製品として紹介されています。
しかしここで注意が必要なのは、表の右端の「対応信号」で、「L1C/A」と書かれている箇所です。
あとで詳しく述べますが、この「L1C/A」では誤差数センチにはなりません。他のスマートフォンについても同様に「L1C/A」しか対応していないということになります。
FAQ(よくある質問)|みちびきについて|みちびき(準天頂衛星システム:QZSS)公式サイト – 内閣府
http://qzss.go.jp/overview/faq/index.html
みちびき対応スマートフォンで利用出来るのは、現時点では「衛星測位サービス」のみで、精度は従来のGPSと同等です。みちびきは天頂付近に長い時間留まるため、GPSのみ利用するケースと比較すると、特にビルの谷間や山間部などにおいても、位置情報がより安定的に得られるようになります。
※引用時に下線追加
残念ながら現在発売中のスマートフォンではこの「みちびき」のサービスを利用して測位精度が飛躍的に向上することはありませんが、おそらく今後発売されるスマートフォンでは、この「みちびき対応」を謳った製品が数多く出てくると思われます。
なお今回打ち上げられた衛星が試験運用を終えて一般サービスが開始されるのは来年2018年春となっています。
なおスマートフォン向けなどでの「みちびき」の利用に、特別な申請や利用料金はかかりません。一般向けサービス開始以降は、対応機種・対応アプリであれば誰でも自由に利用できます。
GPSと何が変わるのか?
今回の打ち上げ成功報道では、「数センチ単位」と報道されていますが、これは私たち一般ユーザーが気軽に利用できるものではありません。
「みちびき」で提供されるサービスには複数のサービスがあります。
送信信号一覧|みちびきについて|みちびき(準天頂衛星システム:QZSS)公式サイト – 内閣府
http://qzss.go.jp/overview/services/sv03_signals.html
この中で一般向けに提供される測位情報は「サブメータ級測位補強サービス」と呼ばれるものです。
サブメータ級測位補強サービス|みちびきについて|みちびき(準天頂衛星システム:QZSS)公式サイト – 内閣府
http://qzss.go.jp/overview/services/sv05_slas.html
現在利用できるGPSでは測位誤差は10m程度とされていますが、この「サブメータ級測位補強サービス」を利用することで「誤差1m以下」での測位が可能となるとされています。
これは一般に販売され気軽に利用できるスマートフォンやタブレットなどに今後搭載され、利用できるようになるサービスです。
恐らく来年春の新機種では、この「サブメータ級測位補強サービス」が利用可能になる「L1S信号」対応を謳った製品が登場してくるでしょう。
また「みちびき」では位置情報だけではなく、津波や地震、テロなどの災害・危機管理情報の伝達も行われます。
大災害が起こって地上経由の交通網や通信網が遮断された場合でも、衛星を使って災害の状況や避難先などについて知ることができるようになります。
誤差数センチとは?
では報道で使われている「誤差数センチ」とは一体何なのでしょうか?
これは「センチメータ級測位補強サービス」と呼ばれているもので、測位誤差は数センチとなります。
センチメータ級測位補強サービス|みちびきについて|みちびき(準天頂衛星システム:QZSS)公式サイト – 内閣府
http://qzss.go.jp/overview/services/sv06_clas.html
この「センチメータ級測位補強サービス」を利用するためには受信機も特殊なものとなり、また受信機のサイズも大きくなることから、スマホなどのいわゆるモバイル端末ではなく、測量機材あるいは車載での利用が想定されているということです。こちらは、主に測量やIT農業などでの利用が想定されています。
これ以外でも「みちびき」では、航空機などにSBAS信号を発信することが予定されていたり、紛争時など緊急事態においても国などの公共機関が測位情報や時刻情報を得る仕組みも用意されています。
報道では、私たちが誤差数センチのサービスを利用できるかのように流れていますが、実際にその恩恵を「直接」利用することは少ないと考えておいたほうがいいでしょう。しかし、こうした専門技術が利用されることで、結果的にその恩恵を受ける機会も出てくるでしょう。
まとめ
では今回のみちびきについてもう一度まとめてみましょう。
- 利用開始は来年2018年の春以降
- 現在の「L1C/A」のみ対応のiPhone7などでは恩恵は限定的で、「L1S」対応機種の登場を待つ必要がある
- 私たちが直接利用できるのは誤差1m級のサービス
- 将来的に誤差数センチ級のサービスの恩恵を感じる場面も出てくる
- 今後さらに衛星を打ち上げることで、さらに安定的に日本独自の運用を行うことも可能になる
だいたいこのような点を押さえておけばいいのではないでしょうか。
参考資料
みちびきの必要性|みちびきについて|みちびき(準天頂衛星システム:QZSS)公式サイト – 内閣府
http://qzss.go.jp/overview/services/sv02_why.html
FAQ(よくある質問)|みちびきについて|みちびき(準天頂衛星システム:QZSS)公式サイト – 内閣府
http://qzss.go.jp/overview/faq/index.html
みちびき(みちびき)とは – コトバンク
https://kotobank.jp/word/%E3%81%BF%E3%81%A1%E3%81%B3%E3%81%8D-188910
宇宙基本計画 – 内閣府
http://www8.cao.go.jp/space/plan/keikaku.html
宇宙安全保障の確保
http://www.jaxa.jp/about/report/files/fy27_01.pdf
NAQU情報 | 準天頂衛星システム(QZSS) 公式サイト – 内閣府
http://sys.qzss.go.jp/dod/naqu.html