川崎市がボードゲーム政策ボランティアを募集している件で話題になっています。
そこで事情を調べてみました。
募集内容
きっかけとなったのは下記のツイート。
【メンバー募集!】「川崎景観ボードゲーム制作プロジェクト」始動!「難しいなぁ…」と思われがちな景観について、「楽しみながら学べる景観」を目指し、景観オリジナルボードゲーム制作決定!一緒にボードゲームを考えてくれる検討メンバー募集!
pic.twitter.com/wDmiJWV3Hcボードゲームを活用した景観まちづくりの取り組み— 川崎市の景観まちづくり (@KWSK_Townscape) 2017年9月28日
これは川崎市のソーシャルアカウントのひとつで、「川崎市の景観まちづくり」のためのアカウントです。
募集告知のページがこちら。
川崎市:ボードゲームを活用した景観まちづくりの取り組み
http://www.city.kawasaki.jp/500/page/0000091306.html
たしかに、「無償」で「ボードゲーム制作」の検討メンバーを募集しています。交通費なども一切でないため、いわゆるボランティアを募集しているということになるかと思われます。
市の言い分
市の言い分を取材しているメディアがありましたのでその内容を見てみましょう。
川崎市が「無償、交通費なしでゲームを作れ!」? 「対価を払え!」「ゲームを舐めるな!」と批判集中|ニフティニュース
https://news.nifty.com/article/domestic/society/12144-310453/
市の担当者はツイッターで告知しすぐに批判が寄せられた、と驚いていて、「至極普通の取り組みと思っている」と取材に語った。
担当者は取材に対し、ツイッターに告知した途端批判が寄せられたことに驚いていて、プロをタダで使おうとしている、素人にはゲームは作れない、結果的に長時間にわたりゲーム制作をすることになるから無償は許せない、といった誤解が生じていると頭を抱えていた。
何がダメだったのか
これを読むと、どうも川崎市はコミュニケーションで失敗したように感じてしまいます。
一言で言えば「ディスコミュニケーション」してしまったということになるのでしょうか。
要するに市としては、プロに発注する前の検討作業を「市役所だけではなく地元を愛する人たちと共に進めたい」と考えていたようで、取材に対してもそのように答えています。
しかし、ツイッターを見る限りでは「景観オリジナルボードゲーム制作決定!一緒にボードゲームを考えてくれる検討メンバー募集!」となっており、一見するとボードゲーム制作を無償で行ってください!といっているように見えてしまいます。
問題の底流にあるもの
現在の世の中の流れとして、ボードゲームはいわゆる従来の概念で言うプロつまりゲーム会社などが制作・販売するルートよりも、一部の熱狂的なマニアが自ら考案・制作した上で、キックスターターなどの販売手段を通じて世に流通することが主流となりつつあるように感じます。
これは単に素人でもボードゲームを作って販売できるということではなく、むしろ現代は個人レベルのマニアこそ一番の作り手になりうるということを示しています。
企業体で制作をすれば、企業体を維持するための人員(例えば経理などの事務職)を雇用維持する必要も出てくるため、社員が自分自身に興味がない分野にも商品展開する必要などもあり、またコスト管理などを徹底した結果、マニア受けしないライトな商品しか作り出せない。ライトな商品はマニアには受けない。マニアしか買わない業界になりつつあるボードゲーム業界では企業体が成功することはできない。などといった問題が出てくることは容易に想像できます。
しかし個人レベルで制作を行うことで、コスト度外視で趣味に走った内容・品質でのボードゲーム制作が可能で、またそれを求める側もその価値を理解できるからこそ、結果的に製作者が充分な報酬を得ることが可能となりつつあります。当然ながら誰もが簡単に制作して世に出せるということと、その全てが世の評価を受けるということはまったくイコールではありません。むしろより厳しい評価を受けることになります。
今回川崎市のツイートに最初に反応した人も、おそらくはこうした事情を熟知している人が大半なのではないか、または部分的にでもそのような制作を実際に行っている人ではないかと思われます。
なので、たとえ一部の作業とは言え、本来有償で提供できるものを無償提供しろといっているように感じてしまったために、今回の騒動が起きているように感じます。つまりは公務員による民間人の能力及び時間の搾取であるというわけです。
ネットでの反響も多くはそこにあるように感じますし、私自身ニュースタイトルを読んだ瞬間はそう感じました。
しかし上記の川崎市の案内ページを「好意的に」読み取ると、制作作業のかなり前の段階である検討作業をワークショップ形式で行うことで、市民参加型で子どもたちへの地域教材を作ろうという意志を読み取ることも不可能ではありません。
それを市役所だけで行うのではなく、興味がある住民が参加することで、より地元密着型の展開を行うことも夢ではないでしょう。そこに搾取してやろうという意志はあまりじません。
しかし
- なぜ(個人制作の成功事例がある)ボードゲームを選んでしまったのか
- なぜ世間の流れ(個人制作にも充分な敬意が払われ報酬を得られる)を理解できなかったのか
- なぜ公務員に対する風当たりを考慮できなかったのか
というような問題点への疑問は、どうしても拭えません。
このあたりが公務員の限界なのでしょうし、だからこそ叩かれているのでしょう。
こうした企画を、たとえ充分な業績が出なくとも身分が保証される公務員が、給料の出る範囲内で考えていたのだと思えば、川崎市民でなくとも腹の一つも立ってしまうというものです。
上で書いたような時代の流れと合わせて考えると、もはやこうした”市役所が旗振り役となって地域活性化などを行う”という行政スタイルは無理があるのではないかと思われます。むしろ最大限のコスト圧縮をしながら最低限の市民サービスを淡々とこなすべき時代になっているのでしょう。