従来型「批判」の限界

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最近、とくにメディアの主張と世間の人々の考えることの乖離が激しくなっていることは、日本だけでなく世界中で起こりつつある事象のように感じます。

この原因はなんだろうかと常々ぼんやりと考えてきたことをまとめてみたいと思います。

なお私自身、政治学者でもないため政治にとくに詳しいわけでもなく、ただの飲み屋の議論レベルですので、論点の甘さなどは大目に見ていただければと思います。そんな議論ができるのなら政治家にでもなっていると思います。もっとも「地盤」も「看板」も「鞄」もないため、そんなことはありえないのですが。

むしろ、この事象について、「なぜ起こったのか」、「どうすればズレは縮小できるのか」などについて、なぜ議論が進まないんだろうかと思い、書き始めた次第です。

日本でのズレの表面化

日本でこのズレが大きいなと感じ始めたのは、安倍政権になってからのように感じます。

マスメディアは火付け役とも思えるような世論誘導を行い続けていますが、一方世間ではそれほどその論調が受け入れられているように感じません。それどころか、むしろSNSなどネット界隈のほうが冷静に状況判断できているケースが目立ってきているように感じます。

これはメディアが変わったというより、世間の風が変化したにも関わらず、メディア側がそれに着いて行けていない状態なのだろうと思います。

風はいつ変わったのか

では世間の風はいつ変わったのでしょうか?いろいろな見方があるでしょうが、私は東日本大震災と民主党政権の崩壊が大きかったのではないかと漠然と感じています。

90年代に阪神淡路大震災が起こり高速道路が倒壊するなどの驚くべき事象が起きましたが、あの頃にはまだバブルの余波などがあり、「日本なら簡単に復興できるだろう」という楽観的な見方のほうが大きかったように思いますし、関西の一部で起きたために東京を中心とするメディアの反応はやや鈍く、醸成される空気感に「終わった感」はなかったと思います。

しかし東日本大震災のときには、大地震に加えて巨大津波が発生し、これが家どころか町並みを飲み込んでいくさまが空撮ヘリからTV中継され、日本中が非常に大きな衝撃を受けていたように思います。さらに福島第一原発でのメルトダウン事故が起こったこともあり、関東地方でもものすごく身近な出来事として「放射能がどれくらい漏れたのか」、また風向きを検証して「どれくらいの地域にどれくらい飛散したのか」といった内容を連日繰り返し放送していたように感じました。

さらに、主にメディア主導により「一度民主党にやらせてみよう」という風を起こして実現したはずの民主党政権への失望も、地震後の対応に対する不満や悪化していく一方の日本経済の状況とともに徐々に広がっていき、それは最終的に消費税増税の三党合意によりどうしようもない状態へと陥ってしまったのではないかと思います。結局民主党政権は、約束していた事柄の大半を実現できないまま野に下ることになりました。そればかりか、後に明らかになるように、パフォーマンス主体であったと批判されても仕方のない事業仕分けの悪影響が、日本各地で起こっており、それは後の天候不順などにより明らかになっていくのです。

この「もはや日本には政権選択をして遊んでいる余裕などないのだ」ということが、言葉ではなく肌に感じる実感としてこの頃に認識され共有され始めたのではないかと思います。

日本経済の表面的な復調と企業体力の低下

その後安倍政権になると、企業が求めていた施策を打ち出すことが期待されたことから東京株式市場も初めから大きく反応し、それまでにない安定した強い政権に支えられドル円も円安傾向を維持することができたこともあり、「実態がない」と批判されるアベノミクスで成果が出ているかどうかに関係なく、輸出企業中心に日本企業は潤っていきます。

しかし、この時すでに日本経済はダメージを受けつつあり、そのひとつが2012年問題(2007年問題)に代表される「労働力の縮小」というどうしようもない問題であったのではないかと思います。

メディアで、日本の将来的な人口減少と、それに伴う労働力の低下、それらの要因から予想される日本経済の縮小傾向などが取り上げられるようになったのが、この地震の後からではないかと思います。それはひとつには、2012年問題として説明されている団塊世代の大量退職であったのだったと思われます。一時的には人件費の縮小などの効果を生んだのでしょうが、長期的に見れば、個々企業での対応力の低下や危機管理能力の低下といった地味なところから影響が出始めたのではないかと思います。

これに加えていわゆる「氷河期世代を雇用してこなかったツケ」が、明らかになり始めたことも大きいかと思います。本来であれば30代半ば~40代半ばになり企業を支える中堅どころが歯抜けのように落ちているという大きなリスクが、ようやく各企業に実感を伴って理解が進み始めたのではないかと思われます。また長い不況期を、安易なリストラにより乗り切ろうとしたツケが、ここにきて響いてきたとも言えるかと思います。

こうして企業体力の主な構成要素である労働力は大きなダメージを受け、以前のような右肩上がりの状況は二度と起きないのだということが、日本全体に実感を伴って理解され始めたのです。結局日本経済は、出生率が長期的に回復し続けるなどの奇跡的な要因がなければ、内需中心に見た場合に今後右肩上がりになることはなく、人口減少とともに緩やかに縮小傾向にあるのだということが広く国民に浸透していったのだと思われます。

メディア批判のズレ

一方で、メディアにおいて決定権を持つ層はいまだにバブルを経験した世代ですから、この長期的なマイナス傾向というものがいまひとつ実感できないでいるようです。実感できているかどうかはともかく、紙面や画面上に踊る文言はこの「不景気」の原因が政権与党の政策にあり、とにかくそれを打倒するのだという主張しか頭にないように感じます。

ここで、世間に広く認識されつつある「余裕のない日本」や「緩やかな縮小傾向」と、それを認めようとしないマスメディアとのズレが、事あるごとに明らかになり、それによりメディアがいくら笛を吹こうとも読者・視聴者が踊らないといった状況へと陥り、さらに焦ったマスメディアが焚きつけるように激しい言葉を使って批判するため、マスメディアと世間との乖離はますます広がっているのが現状であるように感じます。

特にここ最近のマスメディアと野党は、国民にとって空虚にしか思えないイデオロギー論争を中心に据えて主張を繰り広げているのですが、それは現実を伴ったものではなく、またこれまで何十年も繰り返してきたにも関わらず一向に進展しない議論まで含まれているため、多くの人にとっては言葉遊びにしか感じられないものも含まれています。

紙面やTV画面に踊るのは、本論ではない揚げ足取りであったり、スキャンダルであったり、退屈なイデオロギー論争であったりで、それは内容がなく主体性もない批判でしかありません。自分たちが担うとすればこうするのだという具体的な根拠に基づく提案がほとんど行われていないように感じます。

こうした従来型の「批判」は、以前なら有効だったのでしょうが、すでに多くの国民は肌感覚として以前とは異なる実感を日本の現状に対して持っているのではないかと思います。

この数年間政権与党の批判が継続されていますが、それで与党の支持率が極端に低下した実感はなく、むしろ野党の支持率が減少し続けているようにすら感じられます。もっともメディアの信頼性が低下している現在、従来どおりの調査方法が有効ではない可能性が高いのではないかと思いますが、それにしろ従来の調査方法ですら判明しているくらいマスメディアや野党の主張は世間とズレているのだと言わざるを得ないのだろうと思います。

またアメリカのトランプ政権のスキャンダルも、マスメディアで取り上げられない週がないほどに感じますが、様々な調査結果で見る限り、メディアが伝えるほどにはトランプ政権は危機的状況にはないように感じます。それどころか政権与党であるアメリカの共和党支持層にはむしろ当選当初よりも支持率が上昇しているという調査結果まであるようです。どうも構造は日本と同じであるように感じます。さらに移民政策などで激しく批判されてはいますが、ヨーロッパ各国においても、国民が各国政府の移民政策に対して(それがいいかどうかの価値判断に関わらず)かなり敏感になっていることが感じられます。

どうあるべきなのか

こうした状況下において、マスメディアや野党が取りうるべき道はあまり残されておらず、まず日本の現状を認め、将来に向かって「何をしなければいけないのか」について、現実的な地についた議論を行うべきでしょう。

保育所問題で政権批判を取り上げるメディアや野党はあっても、なぜか少子化問題を根本から取り上げ主張するメディアは少ないように感じます。念の為に書いておきますが、保育所問題を解決すれば少子化問題が解決すると思っている国民は極少数だということです。ここにこそ一番大きな大きな投資をすべきだと思いますが、なぜかそうした声はほとんど聞こえてきません。しかもこの問題は数年でどうにかなる話ではありませんし、出産可能な世代人数が減少傾向にあるため今後ますます困難になることが目に見えています。

また規模とスピードはともかくとして、地方自治体の行政組織がこのままでは破綻に近づいていることを真剣に取り上げ、現実的な解決策を提示するメディアや野党は少ないように感じます。なぜコンパクトシティなど小さな行政府を目指す議論が活発に行われないのでしょうか。いつまでも税金を取り立てればなんとかなると思っているのでしょうか。

電力問題にしろ、長期的な視点での原発廃止は多くの国民が合意するでしょうが、そのためにはまずその他のエネルギーを早期に現実的なレベルにまで高める必要はありますが、これも単発でポツポツと取り上げる程度で、じっくりと追いかけて主張しているメディアは少ないように感じます。

さらにこれもまた随分前から議論されているのに一向に進まない「お金のかからない政治」というものへの具体的な取り組みも、まったく見えてきません。いくら国や制度が違うとはいえ、現状のお金がかかりすぎる政治態勢では、国民にとって身近な地に足の着いた政策が出てくるとは到底考えられず、特に地方自治体の首長や議員については根本的に制度を替えてでも実現をして欲しいところです。

要するに一言でいえば、今後日本が現在の経済状況を持続的に維持し、できれば僅かでも可能性があるのであれば上昇傾向へと持っていくための地道で長期的な視点こそが求められているのではないかと思います。

こうした議論は、恐らく国民の多くが程度はともかく漠然と不安に感じていることであり、なおかつイデオロギー論争よりもよほど喫緊の話題であるはずです。こうした議論が政権与党から出てこないのも非常に残念ではありますが、だからこそマスメディアと野党はここを攻めるべきではないかと思います。決して感情的にではなく、長期的視野と冷静な議論で日本という国の将来像を今よりもう少しマシなものにする姿勢を見せることができれば、世間の支持も多少は得られるのではないかと考えます。

 

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