そういえば年始に流れてたびっくりニュースを忘れないうちにメモっておこうと思う。それは「大きめの餅は胃で溶けない」という内容で、内視鏡で処置したというニュースだった。
事象
65歳の女性が腹痛を訴えて救急病院を受診、腹部CTを撮ったところ胃内に多層の円弧状の高密度な物体が認められたという。
そこで内視鏡検査をしたところ、直径30mm程度の丸餅10個が未消化の状態で見つかった。患者が言うには、雑煮の丸餅を十分に噛まないまま食べたのだという。
行われた処置
内視鏡スネア(輪っかのようなワイヤーで対象物を締め切る)で餅を1センチ以下にスライスした上で、消化酵素配合剤を処方。2日後に内視鏡検査をすると、餅がすべて消失し、さらに腹部CTでも餅が残っていないことが確認されたという。
学ぶべきこと
胃の温度では餅は固まる
今回の報道で驚いたのが、「胃の温度では餅は固まる」ということだ。※通常は体温+1度
さらに「3センチほどの大きさになると胃の出口(幽門)から出ていくことができず、胃内に残り続ける」ということも重なってしまったのだ。
今回、胃の中で餅が残り続けたのはこの2点が原因だとされている。胃では消化できなくなったものが胃から出ていけないのだから、当然残り続けてしまう。
餅は消化に良いのか悪いのか
餅というと消化に良いと聞かされて育った人が多いだろうと思われ、特にお正月などは雑煮に入っているやや固まりつつある餅をあまり噛まずに飲み込んでた人も居るかもしれない。しかしそれが非常に危険な行為だということが知れ渡った。
雑煮などに入っている状態の餅はある程度温度が高いためぐんにゃりしているが、胃の中はそれよりも温度が低いため、餅はどんどん硬くなっていってしまう。
さらに胃は、入り口(噴門)から入ってきた食物を消化しながら蠕動運動を行うことですりつぶし、出口(幽門)に向かってそれらを押し流していく。この時、胃の中で冷めた餅は(胃の消化酵素では)消化できず、固まりながら幽門へと運ばれるが、幽門のサイズである2センチを超えるものは胃から出ることがないまま胃内に残り続けるということになる。
じゃあ餅はどこで消化するのか
じゃあ餅はどこで消化するのか?というと、十二指腸に排出され胆汁や膵液で溶解されるのだという。つまり、胃ではあまり消化できておらず十二指腸まで運ばれてようやく消化されるということになる。その途中で詰まってしまえば残り続けてしまい、今回の患者の場合は、丸餅10個が胃で5日間残っていたのだという。
デンプンの種類など
「餅は消化に良い」というのはあくまで(すり潰されていない粒状態の)白米に対してのものであり、実際にはもち米のデンプンであるアミロペクチンは複雑な構造で、むしろ白米(うるち米)のデンプンより消化に時間がかかるのだという。このため「餅は腹持ちがいい」とも言われる。なおかつ冷めた餅はむしろ消化しづらく、上記のように胃で固まる可能性や、さらには腸閉塞を引き起こす可能性もあるという。
お餅の原料になるもち米にはアミロペクチンというデンプン質が白米のうるち米よりも20%程度多く含まれています。このデンプン質は消化酵素が浸透されにくいために胃腸にとどまる時間が長いことがわかっています。
「お餅、上手においしく食べよう」藤田ゆかり保健師のけんこうコーナー | トピックス | 神奈川県建設労働組合連合会 | (神建連)
お餅はもち米のデンプンであるアミロペクチンで出来ており、溶解しにくいこと、熱を加えると柔らかくなるが冷えると固く粘着性が増すなどの特性があります。皆さんも実生活の中で感じられている通り、食べている間に冷えてくると固くてベタベタするのです。このことは、お餅の温度が高いはじめのうちは口の中を通過しやすいものの、徐々に温度が下がってくるとのどや腸で詰まりやすくなる理由となります。腸の中では管腔が狭い回腸でよく詰まるようです。
お餅に注意|病気と健康の話|小郡三井医師会
また白米(うるち米)ともち米の構造の違いやグラムあたりのカロリーの違いについてはこちらが詳しい。
うるち米は約20%の割合でアミロースという直線的なデンプンが含まれているのに対し、もち米にはほとんどアミロースが含まれず、デンプンのほとんどがが網目構造のアミロペクチンです。
ご飯とお餅|サプリメントのヘルシーパスブログ
その他、そもそもなぜ餅が温めるとつきたてのような状態に戻るのかなど、デンプンの性質。
一度冷えたお米は、レンジでチンして、炊き立てに戻るのか? | ばんばのブログ
餅というと喉につまらせて(気道閉塞)亡くなるケースが毎年報道されるが、それ以外の危険性もあるのだということを思い知った報道だった。餅は消化に良いからなどと過信せず、よく噛んで、くれぐれも丸呑みなどしないように心がけたい。