伝統を支えるもの

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日本刀のブームだそうです。

 

これまでは中高年者の密やかな愉しみであった日本刀の世界が、にわかに息づいています。
本屋では日本刀の書籍が平積みされ、美術館での展示が行われれば行列ができるほどの盛況ぶりとなっています。スマホゲームによる若い世代への露出が、これほどまでに劇的にその業界を変化させる例も珍しいのではないでしょうか。

 

このブームに乗って、この秋とある若手刀鍛冶が、クラウドファンディングの仕組みを利用しての日本刀奉納プロジェクトを立ち上げたところ、わずか数日で目標金額を軽く達成し、その後もとどまるところを知らず数千万もの資金を集めることに成功しています。

この復活プロジェクトの是非はともかくとして、こうしたマイナーな世界に飛び込んだものが資金協力を得ると試みが成功したという点については、手放しで素晴らしいというほかないでしょう。

振り返ってみれば、日本刀の世界も他の芸術の例に漏れず強力なパトロンの存在があってこそ継続してきた歴史があります。

しかし明治維新後の廃刀令以降、日本刀は実用的なものではなく、あくまで美術品としての観賞用の工芸品という側面のみが残ることになってしまいました。

ということは美術的価値を持たせ高めないかぎり、刀鍛冶にも存在価値がなくなってしまうということにもなります。

 

伝統技能というものが世代を超えて受け継がれていくためには、一定量の需要が不可欠であることはいうまでもありません。

一時的で表面的な盛り上がりではなく、生産を支える刀鍛冶にまで光があたったこと、またファンディングに対して初期想定以上の十分な資金が集まったことで、後続への希望に繋がることになる可能性があります。技能者に直接お金を集めうるクラウンドファンディングという素晴らしい仕組みと、情報発信力を持つ技能者が組み合わさることで、日本刀の世界は今後も継続できるチャンスを得たとも言えます。

 

ただし、二匹目の泥鰌を狙ったプロジェクトが開始前に頓挫したことは、こうした一過性のブーム特有の危うさを秘めていることを露わにしました。
お金が集まればそこに人が集まるのは当然ですが、そこで刀鍛冶とパトロンという関係性を歪めてしまうような構造もまた容易に産んでしまいかねません。

そうなれば、今までのブーム同様に中間マージンを得ようとする者だけが栄え、生産者が日の目を見ずに沈んでしまうかもしれません。

日本独自の発展を遂げ1千年続いてきた日本刀の世界がこれからも続くかどうかは、いま日本刀に興味を持ち始めた私達にもその責任の一端があると思われます。

 

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